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持続的成長できるNPO法人をめざして

1.NPO法人とは

この「京都文化企画室」もそのひとつだが、近年、NPOを名乗る団体・組織が増えている。
「名乗る」と言っても法人格だから、勝手に名乗るわけにはいかない。活動する範囲・地域によって、国(総務大臣)や都道府県(知事)の認可が必要である。京都文化企画室の場合は、主に京都府内を中心に活動しているので、京都府知事の認可を受けたNPO法人である。

そして、いったんNPOの法人格が認められると、もうそれは私的な集まりではなく、公的な存在になる。公益法人として、行政、公的団体などからの助成を受ける資格ができるが、同時に個人が楽しむためだけでなく、社会的に貢献する活動をすることが求められるわけだ。
NPOに似たものにNGOがあり両者はよく混同されるが、NGOの方はNon Governmental Organization(非政府団体)の略で、「アムネスティ」「国境なき医師団」「世界宗教者平和会議」のように、国連や各国と並んで国際的な援助活動などする、民間の団体のことだ。これに対し、NPOは、「Non Profit Organization」の略で、「民間非営利団体」と訳されている。

このように日本語に訳すとProfitは「利益」で、それがNonなのだから、NPOは(企業とは違って)お金儲けはしてはいけないということになる。だが、活動のために必要な範囲での収益事業は認められている。と言うより、むしろ収益事業をすることによって、NPOの活動が持続的に成長していくことができるので、そうすべきなのだ。ただ、これを悪用して、一部のNPOが、看護や福祉などの「公益性」を看板に、企業でも許されない詐欺的な業務をして、社会問題になっているのも事実である。 そのような一部の悪徳NPOは別にして、本来の公益的な活動を営んでいるNPOは、お金が儲からないのに、なぜ活動しているのだろうか?英語でProfitによく似た単語にBenefitがあり、日本語ではともに「利益」と訳されるが、この二つの単語の「利益」には大きな意味の違いがある。Profitは主に金銭的な利益を言うが、Benefitの方はそれ以外の主に精神的な利益をいう。つまり、他人の役にたつことをしたり、次世代に自分の技を伝えたりすることによって、喜びや生きがいをえるということだろう。そしてNPOは、Profitは無いが、このBenefitはあるのだ。

だからNPOは、文化をはじめ、保健、福祉、環境、国際貢献、教育などのいくつもの社会貢献的事業ができることになっている。つまり、企業よりも、事業の範囲は広く、自由である。この場合、NPOの会員は、その事業の参画者であって、顧客ではない。その上で、会員以外の国民、市民に対して、上記のような活動を行うのがNPOだ。

2.NPOのかかえる問題

日本でNPOの法人格が認められるようになった社会的背景は、阪神大震災を契機にして、ボランテイア活動が広がってきたということがあろう。ボランテイア活動の欠点は、それがまさにボランテイアであるが故に、活動のための資金が続かなくなるということがあげられる。であれば、企業や行政から寄付を受ければよいのだが、現在の日本の税制では、企業はボランテイア的な活動に寄付をすると、むしろ税金を支払わなくてはならないという仕組みになっている。行政も、私的な団体の私的な活動に税金を出すわけにはいかない。

そこで、ボランテイア的な活動でも、公的に審査して、基準に適合する団体には、法人格を与えれば、事業による収入を得たり、寄付を受けたりすることができる。そして、その収入や寄付で、事業を継続し、さらに発展させていくことができる。こうした考えから生まれたのがNPOの法人格だ。

だが、これはNPOの可能性であって、残念なら現実はかなり異なる。現在、日本国内で2万以上のNPOが認可されているといわれるが、実際に活動を続けているのは、そのうちの1割に満たないだろう。これは、企業とは違い、NPOがシロウト集団で、組織運営や経営意識が欠如している場合が多いからに他ならない。NPOも法人である以上、企業と並んで競争していかなければならないのだが、そのように認識している参画者が少ないからだ。文化にも、教育にも、まず経済基盤が必要であることはしばしば忘れられがちだ。

しかし、NPOは、利益追求を目的にした企業とは異なり、あくまでその活動を通じて社会に貢献し、かつそれによって会員にBenefitをもたらすのが目的だから、その兼ね合いが難しい。「経営」と「楽しさ」という両極のことを、共存させなければNPOである意味はないのだ。

3.NPOの持続・成功のために

最後に、以上のことから、NPOを持続し発展させるためのポイントをまとめてみよう。

  1. NPOは同好会、愛好会、クラブではないという意識を、会員全員が共有すること。
  2. 事業目的(社会的使命)を明確にし、会員がそれを実践すること。
  3. それぞれの専門性を生かして事業の役割をになう責任を、会員が自覚すること。
  4. 自分の興味・関心だけでなく、社会的ニーズの変化に対応すること。
  5. 他のNPO、企業、法人とのアライアンス(連携)を図ること。
  6. 事業、会費、寄付、助成金など、多様な収入源を持っていること。
  7. 将来への具体的な事業戦略をもち、成果の自己および外部評価が行えること。
  8. 活動は、会員にも、それ以外の市民にも楽しく、喜びがあること。

NPO法人京都文化企画室が、これらのポイントを今後もクリアーし続けて、その活動を会員全員で持続的に発展していけるようにしていきたいと思う。

関西学院大学 名誉教授
公益財団法人山階鳥類研究所 理事・シニアフェロー
京都文化企画室 顧問
奥野卓司